
生成AIを仕事で使ってみたい。でも、何から始めればいいのかわからない。
便利そうだと思う一方で、「AIが出した答えを、そのまま信じていいの?」「AIを使うことで、自分で考えなくなってしまわない?」と不安を感じる人もいるのではないでしょうか。
今回訪れた高校でも、先生方から聞こえてきたのは、AIへの期待だけではありませんでした。
サンエルがAI活用セミナーを行ったのは、三重県内にある高校。
88人の教職員が参加しました。
AIに触れたことがない先生も多く、生成AIを使い始める最初の一歩として、まずは基礎から学びたいという背景がありました。
そこでセミナーでは、AIの機能や使い方だけを伝えるのではなく、まず先生方がAIをどう捉えているのかを確認するところから始めました。
文章指導や授業づくりなど、先生方にとって身近な仕事に置き換えながら、AIとどう付き合っていけばいいのか。
先生方と一緒に考えた90分をたどります。
「AIを使うべき」から始めない。先生たちのモヤモヤから考えたAIとの付き合い方
セミナーは、「AIは便利だから、まず使ってみましょう」という話からは始まりませんでした。
最初に行ったのは、匿名のライブ調査です。
スクリーンに映し出されたのは、「AI、今どう思っていますか?」という問いでした。
「あなたの『モヤモヤ』が、今日のヒントになります」「皆様のリアルな声が、このセミナーの『教材』になります」と伝え、その時点で感じていることを答えてもらいました。

「生徒が生成AIを使うことについて、先生の『いまの直感』はどれに近いですか?」という問いには、否定的な意見からプラス面への期待まで、さまざまな回答が集まりました。
なかでも最も多かったのは、「どちらとも言えない(よくわからない)」という回答です。
また、教育現場でAIを活用する際の心配については、「考える力が育たなくなる」が53.2%、「楽をしてズルをする」が35.1%を占めました。
「生徒が自分で考えなくなってしまうのが怖い」

「AIの答えが正しいか、結局チェックしなければならない」。
こうしたさまざまな捉え方があるなかで、今回のセミナーで大切にしたのが、「AIに判断を任せない」という考え方です。
AIは答えを決めてもらうものではなく、思考を支える「考具」として使う。AIに何を任せるのかを考えながら、最後は自分で判断することを基本にしました。
その考え方を、先生方の普段の仕事に置き換えていきます。
基礎知識だけで終わらせない。教育現場に置き換えて考える
参加した先生方のAI経験には差があったため、セミナーでは基礎知識だけでなく、普段の仕事に近い実例を交えながら理解を深めていきました。
題材にしたのは、「文章指導」と「授業デザイン」です。
その前提として、まずは生成AIの特徴や、使ううえでの注意点を確認しました。
まずは生成AIの「できる」と「注意点」を知る
まずは、AIや生成AIとは何か、代表的なサービスにはどのようなものがあるのかといった基礎から扱いました。
文章をつくる、アイデアを出す、情報を整理するなど、生成AIにできることも紹介します。

あわせて、生成AIを使ううえで知っておきたい注意点も扱いました。
たとえば生成AIには、事実ではない情報をもっともらしく生成してしまう「ハルシネーション」があります。
生成AIの回答は自然で、もっともらしく見えることがあります。だからこそ、そのまま正しいものとして受け取らず、人が内容を確認することが必要です。
学校で生成AIを使うときの注意点として、「個人情報を入力しない」「教材や書籍を丸ごと入力しない」「採点や成績評価をAIに任せない」「AIの回答は必ず事実確認する」といった点も確認しました。
大切なのは、便利か危険かの二択で捉えるのではなく、こうした特徴を知ったうえで使う場面を考えることです。
ここから、教育現場での具体的な使い方を見ていきました。
実演① 文章指導では、AIを「採点者」ではなく「下読み・整理係」に
一つ目は、生徒が書いた文章です。
まず、作文をAIに渡し、「添削して、採点して、全文を書き換えて」と頼む使い方を取り上げました。
AIに添削や採点、全文の書き換えまで任せれば、短時間で完成形をつくることはできます。
しかし、それでは先生が「この生徒のどこを伸ばしたいか」を考える余地や、生徒自身が書き直す機会が少なくなってしまいます。
そこでAIには、「採点者」ではなく、先生の「下読み・整理係」という役割を持たせました。
AIに任せるのは、文章を「現状・背景・目的」に分けて整理することや、論理のズレや矛盾を見つけるところまで。
そこから、生徒の思考を促す問いの候補も出してもらいます。
AIが出した内容をそのまま生徒に返すのではなく、どの指摘を取り上げ、どのような問いを返すかは先生が判断します。
セミナーでは、この役割分担を「AIは素材出し、先生は脚本家」と表現しました。
AIには、先生が指導を考えるための材料を出してもらいます。
実演②クラスの傾向を整理し、授業を考える材料に
二つ目の授業デザインでは、一人の生徒ではなく、クラス全体の傾向に目を向けました。
使ったのは、30人分の小テストの記述回答です。
30人分をまとめてAIで整理し、クラス全体に共通する回答のパターンや、多くの生徒が見落としている視点を抽出します。
その結果をもとに、不足している視点に気づいてもらうための異なる3つの指導案を出してもらいました。
ただし、「この案がおすすめです」とAIに決めてもらうことはしません。AI自身の意見や推奨は含めないよう、あらかじめ条件を設定しました。
文章指導では個人の文章を読み解く材料を、授業デザインではクラス全体の傾向から次の授業を考える材料を出してもらいます。
このように、同じAIでも仕事内容に応じて任せる役割を変えることがポイントです。
セミナー後、先生たちはAIを何に使ってみたいと考えたのか
では、90分を終えたとき、先生方はAIをどんな場面で使ってみたいと考えていたのでしょうか。
終了後のアンケートでは、「セミナーを終え、AIを使うとしたらどれに近いですか?」と尋ねました。
84件の回答のうち、「思考整理の補助として使ってみたい」が43件、「授業準備で試したい」が17件、「校務で試してみたい」が14件。この3つで全体の約88%を占めました。

自由記述にも、具体的なプロンプトを知りたい、教科別の活用方法を学びたい、実際にAIを操作する実践型の研修を受けたい、といった声がありました。
一方で、「使う予定はない」「興味はあるがまだ不安」「使いたくない」という回答もあり、セミナー後のAIとの距離感は一人ひとり異なっていました。
アンケートからも、AIをどこで使えそうか、あるいはまだ使わないのかを、それぞれの立場で考えていたことがうかがえます。
まとめ
「AI、今どう思っていますか?」という問いから始まった今回のセミナー。
先生方のモヤモヤを出発点に、文章指導や授業づくりを通して考えたのは、AIに何を任せ、何を人が判断するのかということでした。
この考え方は、学校以外の仕事にもつながります。
自分たちの仕事では、どこまでをAIに任せ、どこからを人が考えるのか。
その境界を考えることが、自分たちなりのAIとの付き合い方を見つけるきっかけになりそうです。
